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YASSY'S IMPRESSION vol.1|新型F7試乗/それは“普及版ドグマ”ではない

コラム 2025.11.07
Pinarello

価格的には旗艦ドグマFの下に位置するFシリーズが刷新された。ドグマFに準ずる形で各部がアップデートされ、ジオメトリにも改良が加えられている。ピナレロはドグマの存在が強すぎるがゆえに、他メーカーに比べてミドルグレードの影が薄い印象があるが……。新型F7に自転車ジャーナリストの安井行生が乗り、その存在について考えた。

ピナレロのミドルグレード総観

ピナレロのラインナップにおける弱点は、「ドグマが強すぎること」だ。ドグマという絶対的な旗艦が君臨しているだけに、その下に位置するモデルの印象がどうしても弱くなってしまう。

しかし公平に見ても、昔からピナレロはミドル~アッパーミドルのフレーム作りが上手かった。もちろん年代やグレードによって差はあったが、完成度が高く、トップモデルとはまた異なる魅力を備えているものが多かった。

ドグマを筆頭に、プリンス、パリ、ラザといったグレード展開だったピナレロが、ラインナップを一新したのは2023年初頭。レーシングモデルはFシリーズ、エンデュランスシリーズがXシリーズに整理統合されたのだ。

Fシリーズは、ドグマFを筆頭に、F9、F7、F5という序列。それぞれに固有のモデル名がついていた従来方式に対し、数字でのグレード分けが行われたのだ。味気なくなったともいえるが、分かりやすくなったともいえる。

この世代のF9にしっかりと試乗させてもらったことがあるが、当時のドグマの挙動や剛性感がやや硬質だったのに対し、F9は扱いやすく、ペダリングフィールが上質で、シャープな軽さではなくスムーズな軽さがあった。下りではF9のほうが好印象だった。プロレベルであればドグマのほうがいいのだろうが、それ以外のライダーにはF9のほうが適していると感じた。レーシングバイクとしての性能を担保しつつ、一般サイクリストが無理なく乗り続けられるバイクになっていたのである。

Fシリーズは、「ドグマの廉価版」ではなかったのだ。

新型Fシリーズ概要

2025年、ドグマFのモデルチェンジを追うように、Fシリーズも刷新された。前作Fと非常に似ているが、フレーム各部は現行ドグマFに準じた変更を受けている。特にヘッドチューブは左右幅を狭くするためにブレーキホースを側面から前面に移動、それに伴ってコラムは横に広い楕円となり、ドグマと同じモスト・タロンウルトラファストハンドルが付く。タイヤクリアランスは32Cまで拡大され、フォークオフセットは先代の43mmから47mmへと伸ばされた。

Fシリーズのフレームサイズは9種類。ドグマFの11種類よりはさすがに少ないが、ミドルグレードとしては異例なほど多い。「ロードバイクはス・ミズーラ(オーダーメイド)であるべきだ」というピナレロの理念はミドルグレードまで息づいている。金属フレームの時代ではなくなり、ジオメトリオーダーは難しくなってしまったが、カーボンフレームでもできるだけ乗り手の体にピタリとフィットしたものを届けたいというこの理念を現代でも貫く凄さは、ジオメトリの意味を理解している層にしか伝わらない。フレームサイズを多く用意するということは、それだけフレームの金型が必要ということであり、コストにモロに反映される。なのに分かりやすい商品力にはならない。

それでもピナレロがそれをやめないのは、「メーカーとしての良心」だ。海外メーカーの場合、筆者の最適サイズはたいてい最小サイズだが、ピナレロだけは下から3番目のサイズである。この点に関してはいくら褒めても褒めすぎにはならない。

ステム一体型専用ハンドル、モスト・タロンウルトラファストは、フレア形状を取り入れつつ、よりエアロな形状に。

フォークコラムは真円から横方向に広い楕円断面に。これによってブレーキケーブルのルートがコラム両脇からコラム前面へと移動し、ヘッドチューブが薄くなり、空力的に洗練された。

タイヤクリアランスは前作の30mmから32mmへと拡張された。

ハンドリングと安定性を高めるため、フォークオフセットは43mmから47mmへと伸ばされている

ドグマにはない魅力

今回は、同サイズの前作F7と新型F7を同条件で比較した。アルテグラDi2完成車で、いずれもホイールはフルクラム・レーシング800DBとなる。ちなみに、価格は前作が115万5000円(2025年8月に92万4000円に値下げ)、新型が105万円である。

先代から乗る。やはり、キンキンの先鋭のハイエンドとは違い、落ち着いて扱いやすい性格だ。しかしそれは鈍重を意味しない。一般サイクリストに最適化された挙動やペダリングフィールのマイルドさがありながら、走りは軽い。ゼロスタートで貧脚ながら頑張って踏み込んでも、パワーが吸われている感じはほとんどなく、フワッと軽やかにスピードが上がる。ハンドリングもせわしくなく、意のままに操れる。いいバイクだ。

同じポジションにセッティングした新型に乗り換える。

走りの基本は同じだ。上で記した印象も変わらない。低速から高速まで軽やかな加速、長時間でも持続させやすいペダリングフィール、そういうメリットは完全に受け継がれている。 ただハンドリングには微差があった。安定感がさらに高くなり、高速域では根を張ったようにバイクに身を預けることができるようになった。ダンシングでの挙動も穏やかになり、より自然に扱える。動力性能を維持しつつ、バイクのふるまいに落ち着きが出たという変更である。

ホイールは重量があるアルミリムだが、走りは決して鉄下駄ではなく、トルクをしっかりと受け止めてくれる。「完成車のカタチにするためにとりあえずホイール付けときました」ではなく、純正状態のままでもいい走りが楽しめる仕立てである。

各部を現代的にアップデートした結果、旧規格ならではのバランスが崩壊してしまったという例はメーカー・価格帯を問わずよく見られるが、F7は一番の持ち味を失っていなかった。それは、Fシリーズの作り手が「ピナレロのFはこう走らせたい」という意志を持っていたということだろう。

新しいFも、ドグマの廉価版ではなかった。単なる「入門用のピナレロ」でもない。それはドグマにはない魅力を備えた良作である。「ドグマと乗り比べた結果、あえてFを選ぶ」という選択をする価値すらある一台である。

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