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YASSY'S IMPRESSION vol.2|新型X5試乗/ここにピナレロの本質が宿る

コラム 2026.04.03
Pinarello

ピナレロのエンデュランスロード総観

レースを目的としたロードバイクは、コンセプトにしろ設計にしろ、似通ってくるものが多い。空力を重視したフレームは見分けがつかなくなりつつあるし、軽さを追求したものも無駄をそぎ落とすが故に一つの方向に収斂する。グラベルロードもしかりだ。しかし、エンデュランスロードはメーカーによって結構性格が違う。同じ「長距離を快適に走ること」を見つめているにもかかわらず。

かつてのエンデュランスロードは、荒れた路面のロードレースにも使われた。一般サイクリストの使い方に合う一方、石畳の上をカッ飛ぶスペシャルマシンとしての資質も求められたのだ。しかしロードバイクのタイヤが太くなり、同時に空力性能が重視されるようになって以降、悪路でも選手はエアロロードを選ぶようになり、レースの現場からエンデュランスロードは姿を消す。

現代のエンデュランスロードは“レースユース”という頸木から逃れ自由になった、とも言い換えられる。

自由がゆえに、メーカーによって仕立てる方向性に差が生じる。フレームに可動機構を仕込んで力業で振動吸収性を高めたもの。荷物の積載を視野に入れたもの。空力を重視したもの。悪路まで想定に入れたオールロード的なもの。フレームの剛性を高くするもの、意図的に柔らかくしたもの。

ピナレロも、かつてはエンデュランスモデルをドグマと双璧を成すレース系バイクとしてラインナップしていた。「安定感・快適性を高める」という設計思想を持っているため一見柔和なモデルに思えるが、その本質はパリ~ルーベを戦うレーサーだった。実際、当時のピナレロのエンデュランス系バイク、コブ~ドグマK系列は、決してふわふわの安楽なバイクではなく、踏めば応える頼もしい剛性感を持っていた。それは「長距離を楽に走る」というよりは、「長距離を速く走る」バイクだったのだ。

方向性を変えたドグマX

DOGMA X

しかし2023年に発表されたドグマXで、ピナレロのエンデュランスロードは立ち位置を変える。新世代エンデュランスロードであるドグマXは、レースを前提とするのではなく、「アマチュアライダーが走りを楽しむためのバイク」となったのである。レースはドグマFに一任し、ドグマXは競争をしない。要するにピナレロは、ハイエンド帯のバイクをレースとそれ以外に切り分けたのだ。

「レースを完全にドグマFに任せたことで、ドグマXは、かつてのコブやドグマKとは立ち位置が変わりました。しかし、ドグマXがスピードを諦めたわけではありません。ピナレロをはじめとしたイタリアンブランドには、『ロードバイクに乗るなら、当然スピードを出して走るだろう?』という思想があります。快適性を高めたといっても、安楽なセダンではなく、高性能GTカーというわけですね」とは、ドグマX発表当時のメーカー関係者のコメントである。

そんなドグマXの弟分となるのがセカンドグレードのX9とミドルグレードのX5。特徴はドグマXのアイコンであるX-STAYSがこれらにも採用されたことだ。

個性を備えたXシリーズ

NEW X5|G270|XOLO CRYSTAL WHITE

X-STAYSとは、シートステー上部を二股に分けてシートチューブに接合する作りのこと。一見すると強固なトラス構造になり縦方向の剛性が上がってしまうように思えるが、メーカーの説明によると「シートチューブの2点に力を分散させ、サイクリストへ伝わる路面からの振動を大幅に抑制することで、圧倒的なライドコンフォートを実現する」とのこと。もちろんジオメトリはエンデュランスロードというコンセプトに最適化されたものとなっており、タイヤクリアランスは35mm。

タイヤクリアランスは35mmを確保。X-STAYがピナレロらしい個性的なシルエットを形作る。

シルエットはドグマXに似るが、フレームの設計はXシリーズ専用。ドグマXではX-STAYS部にシートステーブリッジが設けられるが、Xシリーズでは搭載せずシンプルな形状となっており、よりしなやかな乗り心地を実現しているという。フレーム各所にピナレロのアイデンティティでもある左右非対称設計を取り入れていることも特徴だ。

華奢な造りに見えるが路面からの振動をシートチューブ2点に分散させる構造。

セカンド~ミドルグレードにもかかわらずフレームサイズを9種類も用意していることはイタリアンブランドとしての矜持だろう。コストダウンをするにあたって真っ先に切り捨てられるところであろうサイズラインナップだが、ピナレロは誰もかれもがコスパコスパとうわ言のようにつぶやき続けるこの時代に、細やかなサイズ展開を止めない。安価なアジアメーカーが幅を利かせている昨今だが、このジオメトリ表を見る度に「ピナレロの存在意義」を感じざるを得ない。

Xシリーズは、トップモデルのX9を筆頭にX5、X3、X1(X3とX1は2024シーズンからの継続)という構成となる。X9はフレームの一部に東レのT900という高性能カーボンを使用。X5はT700が素材となる。どちらも完成車のみの展開で、X9はデュラエースDI2完成車でカーボンホイール(モスト・ウルトラファスト45DB)を履いて208万円。X5は105 DI2仕様で、同じカーボンホイールを装備して85万円となる。

NEW X5 vs NEW F5

左:NEW X5 右:NEW F5

今回は、王道のロードバイクとの性格の違いを判断するために、X5とF5を同条件で比較した。新型F5は、動的性能を犠牲にせずに前世代のFシリーズより安定感を高めた走りが美点だ。ホイールが重量のあるフルクラム・レーシング800であるため驚くほどシャープではないが、ピナレロのミドルグレードらしく力強い、かつ落ち着いた走りが楽しめる。

性格の違いを判断するために、改めてNEW F5も走らせる。

では初体験となるX5。シルエットはいかにもピナレロらしいものだが、Fシリーズと比べるとヘッドチューブが数cm長くなっており、ジオメトリはエンデュランスロードのそれ。しかし、他社のエンデュランスロードのように「速く走ることはハナから諦めてます~」という安楽ソファのような物体ではなく、精悍なシルエットは崩れていない。ここもピナレロらしい。

NEW F5(左)とNEW X5(右)、同フレームサイズでもヘッドチューブの長さが異なり、X5は前傾ポジションが弱められている。

走りも、その見た目から期待するものだった。冒頭に記したように、エンデュランスロードの方向性はさまざまだ。メーカーによっては振動吸収性もフレーム剛性もフワフワにして、“走るビーズクッション”のようなものに仕立てられることもある。「長距離を楽に走る」というコンセプトを考えるとそれも間違ってはいないが、ピナレロは違う。

F5に比べると、X5はさらに安定感が高まっており、安心してバイクに身を預けることができる。しかし、あくまで「速く走る」ことを前提にしたバランスだ。エンデュランスロードにしてはしっかりとした剛性が持たされており、加速も登坂も力強い。直進安定性は高いが、頑として曲がりたがらないタイプではなく、操作にしっかりと応えてくれるハンドリングを持っている。純正パーツがカーボンホイール(バランスのとれたモスト・ウルトラファスト)と軽量タイヤ(モスト・コンペティション35C)であることも軽やかな走りに貢献している。

カーボンホイール(バランスのとれたモスト・ウルトラファスト)と軽量タイヤ(モスト・コンペティション35C)

「ただ快適に」だけではなく、「快適に、かつ速く」という自転車だ。この方向性は、かつてパリ~ルーベを戦っていたコブ~ドグマKと軌を一にする。「楽に移動したいだけなら電車にでも乗ってればいいじゃないか」。エンジニアのそんな言葉が聞こえてきそうだ。

レースのイメージが強いピナレロだが、「エンデュランスロードのミドルグレード」というカテゴリに属するこのX5でも、その精神性は強く感じ取れる。時代が変わっても、ピナレロの本質は変わらない。

editor / Yukio Yasui


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