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Fausto Talks Episode.5|ジ・アート・オブ・デザイン part2

コラム 2025.12.12
Pinarello

ピナレロを率いるファウスト・ピナレロ氏が、これまでの自転車人生で象徴的なバイクに光を当てるドキュメンタリー動画「fausto talks」。エピソード5は、ピナレロの大きな魅力の一つである「美しさ」について。グラフィック、塗装、フレームの形状など、ピナレロならではの見た目の理由に迫る。新ロゴや初代ONDAフォークの誕生秘話も飛び出した。part2ではフレームグラフィックの話題からインダストリアルデザインの話題へ移っていきます。

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ドグマ:エンド・オブ・ディスカッション

ここから、フレームのグラフィックからは一旦離れ、話はドグマの設計とフレーム形状に移っていく。

ファウスト:個人的にはマグネシウムのドグマが大好きなんです。当時のドグマは、マルコ・ギアキが設計した ONDA フォークにマグネシウムチューブを組み合わせたものでした。

マグネシウムフレーム時代のドグマ。湾曲するONDAフォークが目を引く。

2002年にデビューしたプリンスSLで初採用されたのがONDAフォークだった。3回も湾曲するフォークブレードが人々の度肝を抜いたが、これは「奇抜な見た目」を狙ったものではなかった。設計を担当したエンジニア、マルコ・ギアキ氏が語る。

マルコ・ギアキ:ONDAフォークは純粋な工学的見地から生まれたものです。当時はアルミフレームだったので、選手たちから「剛性が高すぎる」という苦情が出ていました。アルミフレームは振動の減衰が苦手ですからね。フォークやシートステーにカーボンを導入することで、サスペンションほどではないものの、小さな小石でさえ衝撃として伝えてきてしまうアルミの欠点を少し軽減できると考えたんです。さらに、垂直方向にはスプリングのように振動を吸収するものを作ろうと考えました。しかし、ブレーキング時のことを考えると、フォークは水平方向には極めて硬くなければなりません。つまり、必要としたのは、方向によって柔軟性が変化するフォークです。

かつてランボルギーニのF1チームでエンジニアをしていたというエンジニア、マルコ・ギアキ氏。

結果としてONDAフォークは高い剛性と振動減衰性、そして正確なハンドリングを実現しており、これによって「ピナレロハンドリング」なる言葉も生まれた。この初代オンダフォークの基本形状はドグマ65.1まで用いられ、ピナレロというブランドの名声確立に大きく貢献した。

当時のアイディアスケッチだろうか。

ドグマで印象的だったのは、マグネシウムというチューブ素材と、その車名である。誰が聞いても速そうでシャープでクールな車名が多いなか、ドグマという力強くどこか悪そうなネーミングは自転車ファンを驚かせた。

マニュエル:99年、ファウストがマグネシウムバイクのプロジェクトについて明かしてくれました。この素材が他の素材に比べて優れていること、ピナレロはこの素材の独占使用権を持っていること、他のどんなブランドとも違うバイクを作れること。そして、私たちはこれにふさわしい車名を考える必要がありました。私は調べに調べて、「DOGMA」という単語を見つけたのです。

辞書で調べると、「教義、独断的な意見」といった意味が出てくる。「教義」とは、「ある宗教が真理と認めている教えの内容・体系」のことだ。

マニュエル:私たちが気に入ったのは、まずはその言葉の響きです。特に「GM」の部分がもたらす音。次に、とても強い意味を持つ言葉であるということ。カトリックの世界では、これは神の言葉です。だからドグマとは「エンド・オブ・ディスカッション(議論の終わり)」なんですね。私たちがドグマで実現したかったのは、ハイエンドバイクマーケットでピナレロの存在感を示すことでした。この車名は、ピナレロが迎える新しい時代と願望をよく表していました。「DOGMA」は、その意味、言葉の響き、単語の長さの面でニューモデルにぴったりの名前でした。こうしてドグマの物語が始まったのです。

そしてカーボンの時代へ

ファウスト:カーボンの時代が到来したことは、ロードバイクにおいて非常に重要なことでした。性能の面においても、形状の面においても。ピナレロは、最後まで金属フレームを使い続けたブランドの一つです。2004年と2005年に私たちは金属フレームで最後のツール・ド・フランスに勝利し、2006年にはマグネシウムフレームで勝ちました。そして2007年から、カーボンによる挑戦が始まったのです。

マニュエル:2000 年代初頭、カーボンの出現によりフレームの形状が複雑になり、それが私たちデザイナーにとって「真の解放」となりました。私たちはバイク全体をグラフィックで覆い、自分らしさを表現し始めたのです。ターニングポイントとなったのは、初代プリンスカーボンでしょう。それは、マルコ・ギアキがフレーム全体を手掛けたモデルでした。オンダフォークの曲線がフレーム全体に施されたようなユニークな一台で、私にとってそれは真っ白なキャンバスでした。

2008年モデルとしてデビューしたプリンスカーボン。

マニュエル:そうそう、このフレームについては面白いエピソードがあるんです。アップル社が新しいオペレーションシステムを発表したときのプレゼンテーションを見たんですが、そのときプレゼンターが「bicycle」とタイプし、PDFを開くとそこには私たちがデザインしたプリンスカーボンが表示されたのです。アップル社は素晴らしくスタイリッシュなデザインをするブランドですが、彼らが自転車の代表として私たちのプリンスを選んでくれたんです。

誰とも違うものを

プリンスカーボン以降、曲線を多用したフレームデザインはドグマF10まで続くが、ドグマF12は基本的なシルエットは同一としながらも、直線的な形状に変化していた。そこがピナレロのフレームデザインにおける変換点とみることもできる。

ファウスト:F12は、おそらくピナレロ社が作った最初の角ばったフレームです。これは、2017年に発売したグラベルバイク、グレヴィルの影響を受けたものです。

直線的なチューブ形状を取り入れたドグマF12。

マニュエル:我々は、他のどのバイクとも異なるものでありたいと思っています。そこで、私たちはグラベルバイクというセグメントにおいて、悪(Evil)という言葉が示すように、悪者になろうとしました。そうして非常にアグレッシブなバイクを作り、「Gravel」と「Evil」を掛け合わせた「Gr-Evil」という言葉遊びが生まれました。それがグレヴィルという車名の誕生の秘密です。

ファウスト:グラベルバイクはロードバイクとは違います。だから私たちにはルールに縛られずにグレヴィルのデザインをしたのです。一方、ロードバイクカテゴリでは、私たちは新しいバイクを作る必要がありました。ドグマF8は美しいバイクであり、それに続くドグマF10はそのF8のスタイリングに手を加えたものでした。だからF10の次のバイクは、それとは全く異なるものにしなければいけなかったのです。そして、グレヴィルのテイストをロードバイクに落とし込んだのです。

2017年に作られたグラベルバイク、グレヴィル。

マニュエル:結果として、ドグマF12はシャープなエッジを持つフレームになりました。リヤトライアングルもダウンチューブもBBエリアも角ばったデザインとなり、我々がバイクに与えたいと思っていた個性を埋め込むことに成功しました。自転車は基本的に2つの三角形で構成されるので、どれも似たような形状になりがちです。だから我々は、他のどんなバイクとも違う自転車を作りたかったのです。しかし同時に、それは機能に従ったものでなければなりません。自転車のフレームは、純粋に美しい形状にすることはできません。デザインは、技術、物理、美しさという3つを融合させたものであるべきです。単純に「キレイな形」を作ることとは違うのです。

マジック・オブ・ライト

次は塗料の話だ。ピナレロは数年前から、ボレアリスと名付けられた偏光性塗装をラインナップに加えた。見る角度によって色が鮮やかに変化する美しいカラーである。

ファウスト:確か6~7年ほど前、ビーチから海に浮かんでいる大きなボートを見たんです。30mほどの大きなボートでした。そのボートの色が刻々と変わるんです。緑から青へ。青から黒になり、そして黒から輝く紫へ。その色は私を魅了しました。オーロラのように、ニュアンス(色の明度、彩度、色相の微妙な変化)を生むカラーです。それが、光の傾きに応じて色が変わるフレームカラーの採用につながりました。

マニュエル:時間をかけて調査をし、テストを行い、貴重な顔料を含むため非常に高価ではありましたが、スペシャルな塗料を入手することができました。

ファウスト:その色のニュアンスを「ボレアリス」と名付けました。ボレアリスカラーに塗られたピナレロは、最初は青、そして緑、金色へと、あの美しいボートのように色が変化します。

偏光性塗装を採用するバイクは少なくないが、ピナレロのそれは他の塗料よりも鮮やかで色あいの変化が大胆だと感じる。

ファウスト:ピナレロのデザインを一言で表すなら、私は「催眠術のようなもの」と答えます。私がバイクを止めると、いつも誰かが写真を撮りはじめ、もっと近くで見てもいいかと尋ねます。それこそがピナレロの特徴なんです。人々を魅了し、オーナーの感情を高揚させるような美しい自転車。それは一種の催眠術です。

マニュエル:人々を高ぶらせる自転車。それがピナレロの特徴です。

ファウスト:バイクに使われる技術がどこから来たのか、誰が発明したのか、その発案者がトレヴィーゾ出身なのかそうではないのか、そういうことは気にしません。私は、私のスタイルがあり、ONDAフォークがあり、アシンメトリックデザインがあり、私のスタイルを理解してくれているマニュエルがデザインした自転車が好きです。それが万人に好まれる必要はないんです。私のバイクに関しては、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、私の好みを押し付けようとは思いません。他のバイクと違う存在であるためだけに、他社とは違うバイクを作ることは理に適っていると思います。いずれにしても、ピナレロのスタイルは維持し続けます。アグレッシブでありながらジェントルな雰囲気を持ち、ブランドロゴがなくてもピナレロのバイクだと一目でわかるようなバイクを、これからも作り続けますよ。

「他社とは違うバイクを作りたい」からといって、ただ変な形のフレームにただ奇抜な色を塗ったとしても、確かに「他社とは違うバイク」にはなるだろうが、羨望の眼差しを受けることはない。それに、自転車は応力を担う構造体がそのまま「フレームの形」になる乗り物である。だから、ファウスト氏が「自転車のフレームは機能に従ったものでなければなりません。純粋に美しい形状にすることはできないのです」と語っているように、見た目に全振りすることはできない。

要するに、ピナレロが受ける「美しい」「高級感がある」「芸術的」という評価は、センスに加えて、緻密な戦略と強靭な意志の上に成り立っているのである。

editor / Yukio Yasui


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