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fi’zi:k | 異次元のシューズ ベガ #03

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ハイエンドサドルのカテゴリーに、鮮烈なイノベーションとインパクトをもたらした、世界初の3Dプリントサドル・アダプティブ開発の経緯をインタビューしたのち、話題は近年のフィジークを語る上で切り離すことは出来ない、もう1つの中核を担っているシューズに。

インタビューを行ったのは2025年6月だったが、およそひと月前の2025年5月21日、満を持してそのフラッグシップ・ロードシューズはローンチされた。
これまでのフィジークシューズとは、ひと目見て違いを感じられるアバンギャルドなプロモーションムービー、ユニークなプロダクトデザイン、そして先進のテクノロジー。

Step into anther dimension

異次元へ足を踏み入れる

開発陣の自信は、その思い切ったキャッチコピーからも垣間見える。

Question.
これまでのフィジークシューズとは全く異なる構造だと感じるベガ。なにを目指し、どのようなことを実現したシューズなのか?

様々なカテゴリーのシューズを開発し、多彩なグレード階層、豊富なラインナップを持つフィジークは、どのような背景から新しいフラッグシップ・ロードシューズ「ベガ」を開発したのか。
#03では彗星の如く現れた、異次元のシューズ開発のアンサーを探る。


#03 VEGA

会社規模の拡大と共に、増改築を繰り返し巨大化したファクトリーとは対照的に、フィジーク本社はシンプルでモダンな佇まいが印象的だ。直線と曲線を上手くデザインに取り入れ、光と影が織りなすコントラストが、その建物や、社屋内の空間をより洗練されたものに見せる。敷地内には緑が多く茂り、木々を風が揺らす。そんな光景も、自然と建築物がバランス良く融合し、異なる要素を上手く調和させている。

シンプルでモダンな建築の社屋と、緑が広がる敷地 Photo: Cyclowired

インタビューのために案内された一室は、フィジークやセラロイヤル、クランクブラザーズなど、セラロイヤルグループの製品が理路整然と展示されていた。
そのどれもが、各ブランドのデザイン・フィロソフィーを色濃く反映し、展示されている製品それぞれが、さながらブランドを体現したスポークスマンのように私の眼には映る。

創業者の誕生日を、ここまでシンプルかつ美しく社内にデザインした企業を私は知らない Photo: Cyclowired

特に壁面を贅沢に使用し、色とりどりのカラーラインナップで楽しませてくれるシューズは、今やフィジークを代表する製品カテゴリーに成長を遂げ、ブランド立ち上げ当初から生産しているサドルを上回る売り上げを誇る、フィジークの屋台骨だ。サイクル・マーケットを見渡しても、フィジークシューズのラインナップは頭一つ抜けていて、サイクリストのレベルやカテゴリーを問わず、あらゆるライド・シチュエーションにマッチする製品を発表し続けている。

来客時だけでなく、社内でのミーティングにも使用されるショールームは、製品をいつでも一望する事ができる Photo: Cyclowired

ニコラ・ポレッティ氏へのインタビューも自然とシューズ、その中でもリリースされたばかりのフラッグシップ・ロードシューズの話題にシフトしていった。


THE ANSWER編集部(以下TA):つい先月に発表されたばかりのベガは、これまでフィジークが開発してきたシューズとは大きく構造が異なる、エポックメイキングなシューズだと感じましたが、開発のきっかけや着想は?

ニコラ:新しいシューズの開発は、様々な要素が特に絡み合う製品なのですが、今回最も大きかったことは素材の進化です。

多くのライダーに愛されたインフィニートシリーズ Photo: Selle Royal Group S.p.A.

振り返るとこれまでフィジークのフラッグシップ・ロードシューズとしてラインナップされていたインフィニートシリーズのデビューから時が経ち、最新のシューズと比べると若干色褪せて見えるようになっていました。
本当に素晴らしい製品であっても、陳腐化というものは避けられない運命にありますからね。


例えば同じモデルの自動車であっても、2010年製と2025年製では基本設計が同じでも大きな違いがありますよね。新しい素材はテクノロジーを前進させ、結果的に優れた製品を生み出すことが可能になります。
新たに登場した最新素材を使って、どんなシューズを作ろうか。そんなところから全てが始まりました。

このようなシチュエーションでも重視されたのは「デザイン、快適性、そしてパフォーマンス。」という開発ポリシーです。まずはプロダクトデザイナーがスケッチを起こし、そこから開発がスタートします。今回もデザイナーは素晴らしい仕事をしてくれました。

快適性を高めるための大きな要素は、これまでのフィジークシューズにも採用され、すでに第2世代にバージョンアップを遂げていたエアロウィーブ。
シューズのアッパーをよく見れば、シューズの各部分でエアロウィーブの密度がコントロールされていることに気づくでしょう。強度やサポート性が必要な部分は密度を上げ、通気性が必要な部分は密度を下げていて、外側からインソールのデザインが垣間見えるような箇所もあります。

今回採用したエアロウィーブ・プロは、従来のエアロウィーブに、軽量な合成ゴムの一種でエアプレーンと呼ばれる優れた伸縮性を備えた素材と、薄く通気性を阻害することのないメッシュを組み合わせた複合素材によって形成されたアッパーです。

アッパーをよく見ると場所ごとに密度や、使われる素材が異なる Photo: Cyclowired

ホールド感に関わる足首周辺やBOAダイヤル付近を中心にエアプレーンを配置し、シュータンの存在しないブーティー構造を採用。段差がなく継ぎ目の少ない、非常にクリーンなアッパー内部。アッパーが足型に合わせて伸縮することで、足との接触面積が増加しました。ワイヤーを巻き上げると、足底から土踏まずを引き上げて、しっかりとしたホールド感を生むベルト、薄く軽いメッシュでシューズ全体を包み込むことで、これまでのシューズとは一線を画す圧倒的なフィット感を実現しました。さらに、思い切ってトゥーボックス(つま先部分の空間)を広げたこともポイントです。

これまでのアウトソールと全く異なる形状のベガ Photo: Cyclowired

カーボンソールに関しては、インフィニートシリーズの時点で十分な硬度を発揮していたため、これ以上硬くすることはしませんでした。しかし、ラスティングボード*1 を廃止し、アッパーの接着法や素材を見直すことでトータルでのパワー伝達効率を上げ、もっとパフォーマンスは向上させることが出来ると考えました。これもベガで新たに工夫が凝らされた部分です。
*1 シューズの中底。ファイバーボードやプラスチックなどで成形された、アッパーとアウトソールを接着するための接着面。

TA:今回採用されたSHP2という新しいラストの特徴は?また、今後のモデルには採用されますか?

ニコラ:SHP2の特徴は、今までとは違って上からシューズを見た時に直線的な形状であることです。簡単に言うと、ワイドになった。これは負荷を足全体に分散し、一カ所に集中して負荷がかからない形状にすることで快適性、特に長時間ライドの違和感や痛みを排除する設計です。先ほど述べた広いつま先空間も1つの要因ですし、ペダリング時のフィーリングをより自然にするためにドロップ(つま先部分と踵部分の落差。)も低減しました。これら全てを一新したことがベガの特徴です。

SHP2はベガだけではなく、すでにグラベルモデルのビートでも採用されています。ほら、こうして見比べてみると分かるでしょう?すでに2モデルに採用され、マーケットの反応を見ても有利なポイントが非常に多いと証明されました。ですから今後もさらにSHP2採用モデルが増えていく予定です。

ビートからはじまりベガ、そして今後のモデルにも採用予定のSHP2 Photo: Cyclowired

TA:ベガは、エアロウィーブとBOAダイヤルを組み合わせることを、開発のターゲットの1つにしたように感じますがいかがですか?

ニコラ:その通りです! すでにエアロウィーブは、フィジーク独自のクロージャーシステムである「パワーストラップ」を採用したモデルがありますが、BOAダイヤルを好むサイクリストは非常に多いですからね。BOAダイヤルは非常に優れたクロージャーシステムですが、設計が良くなければダイヤル直下に局所的に圧力がかかって痛みが出てしまう場合があります。これを解消する上では、生地密度を自由に調整できるエアロウィーブ・プロは欠かすことのできないアッパー素材だったのです。

BOAダイヤルは、アッパーに直接縫い付けて固定されていることを前提として設計されています。しかし、スタンダードなエアロウィーブ・アッパーにBOAダイヤルを縫い付けるには、クリアすることが難しい問題点がありました。そこで、新たに複合素材で製造されたエアロウィーブ・プロ・アッパーを採用することで問題点をクリアしました。また、BOAダイヤルを縫い付けてあるパーツ直下にはエアプレーンを配置した事によって、ダイヤル本体による過剰な圧力を分散。ダイヤル縫い付け部分が直接足に接することがないので、非常に痛みが出にくい構造と言えます。

TA:ベガというネーミングには意味がありますか?それとも発音した際の響き?

ニコラ:これまでフィジークの製品は発音した時の響きでネーミングすることが多かったのですが、このシューズは星に由来します。ベガ(日本では織姫星)は、こと座α星のことで、非常に明るく青白い光を放つ1等星を指します。フィジークが満を持して送り出す、別次元の最上級ロードシューズですから、空に輝く星のようであることを願ってつけられた名前です。また、ベガという恒星は自転が非常に速く、遠心力の影響で星が楕円に変形しているほどだそうです。星の自転は、自転車の同じ位置で回転してパワーを伝えるペダリングと相通じるものがあり、異次元のぺダリングを実現させるシューズという思いも込められています。


取材を進める中で感じたことだが、フィジークは新しいものを取り入れることに対して非常にポジティブでスピーディーだ。
#2で取り上げたアダプティブは、世界初の3Dプリントパッド採用のサドルである。スタンダードモデルではEVA製のパッドを採用した軽量サドルも発売している。シューズではエアロウィーブやパワーストラップといった独自の素材やテクノロジーを開発し、様々なイノベーションを起こしてきた。ワイドモデルを展開し、好評だったラストもいとも容易くアップデートしていく。
それらがすべて布石となり、ベガは誕生した。

Answer. 
エアロウィーブとBOAダイヤルという、これまで多くのサイクリストに支持されてきたテクノロジーを、新しい素材や新しい構造の採用によって融合させ、今までの製品とは異なるアプローチで快適性とパフォーマンスを向上させた異次元のシューズ。

新しい素材やテクノロジーを積極的に採用しながらも、アナログな職人の手作業を重要視し、美しさと機能を調和させたデザイン、快適性とパフォーマンスを兼ね備えた製品を、緑に囲まれた穏やかな農村風景が広がるポッツォレオーネから、フィジークはこれからも世に送り出し続けると私は確信している。

[了]


PHOTO & INTERVIEW: So Isobe – Cyclowierd
EDIT: Hirofumi Fukuda

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